おりてしまった。道ばたにはところどころに赤く立ち枯れになった黍《きび》の畑が、暗い森を背景にして、さまざまの手ごろな小品を見せていた。しかしもう少しいい所をと思って歩いているうちに、とうとうぐるりと一回りして元の公園の入り口へ出てしまった。
 入り口の向こう側に妙な細工もののような庭園があった。その中に建てた妙な屋台造りに生き人形が並べてあった。鞍馬山《くらまやま》で牛若丸《うしわかまる》が天狗《てんぐ》と剣術をやっているのがあった。その人形の色彩から何からがなんとも言えない陰惨なものである。この小屋の上にそびえた美しい老杉《ろうさん》までがそのために物すごく恐ろしく無気味なものに感ぜられた。なんのためにわざわざこんなものが作ってあるのか全くわからない。
 秋の日がだんだん低く落ちて行った。あまりゆるゆるしていては、せっかくここまで来たのに一枚もかかずに帰る事になりそうなので、行き当たり次第に並み木道を左へ切れていって、そこの甘藷畑《かんしょばたけ》の中の小高い所にともかくも腰をかけて絵の具箱をあけた。なんとなしに物新しい心のときめきといったようなものを感じた。それは子供の時分に何か長
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