ものがぐあいがいいという事は自分にも明白に了解された。しかしそれで枯れ枝などを切ると刃が欠けるという主人の言葉はほんとうらしかった。
私はなんだか試験をされているような気がした。主人は団扇《うちわ》と楊枝《ようじ》とを使いながら往来をながめていた。子供は退屈そうに時々私の顔を見上げていた。
とうとう柄の長いほうが自分の今の運動の目的には適しているというある力学的な理由を見つけた、と思ったのでそのほうを取る事にした。
鋏を柄に固定する目くぎをまださしてないから少し待ってくれというので、それができるまでそこらを散歩する事にした。しばらく歩いて帰って来て見ると目くぎはもうさされていて、支点の軸に油をさしているところであった。店先へ中年の夫婦らしい男女の客が来て、出刃庖丁《でばぼうちょう》をあれかこれかと物色していた。……私がどういうわけで芝刈り鋏《ばさみ》を買っているかがこの夫婦にわからないと同様に、この夫婦がどういう径路からどういう目的で出刃庖丁《でばぼうちょう》を買っているのか私には少しもわからなかった。その庖丁の未来の運命も無論だれにもわかろうはずはなかった。それでも髪を櫛巻《く
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