芝刈り
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)芝生《しばふ》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|鋏《はさみ》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かやつり[#「かやつり」に傍点]草
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私は自分の住み家の庭としてはむしろ何もない広い芝生《しばふ》を愛する。われわれ階級の生活に許される程度のわずかな面積を泉水や植え込みや石燈籠《いしどうろう》などでわざわざ狭くしてしまって、逍遙《しょうよう》の自由を束縛したり、たださえ不足がちな空の光の供給を制限しようとは思わない。樹木ももちろん好きである、美しい草花以上にあらゆる樹木を愛する。それでもし数千坪の庭園を所有する事ができるならば、思い切って広い芝生の一方には必ずさまざまな樹林を造るだろうと思う。そして生気に乏しいいわゆる「庭木」と称する種類のものより、むしろ自然な山野の雑木林を選みたい。
しかしそのような過剰の許されない境遇としては、樹木のほうは割愛しても、芝生だけは作らないではいられなかった。そうして木立ちの代わりに安価な八つ手や丁子《ちょうじ
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