はとんでもない方へ進んでいる。声を掛けようかと思ったが鳥を驚かしてはならぬと思うて控えていると果然|鴫《しぎ》は立った。要太郎は舌打ちをしたと云う風であったが此方《こっち》を見て高く笑うた。そして二本並んだ木蔭へ足を投げ出して坐って吾等を招いた。「ドーダネ。マー一服やって縁起を直しては。巻煙草をやろか。」「ヤーありがとございます――。昨日は私の小さい網で六羽取りましたがのうし。」今に手並を見せると云う風で。
野菊が独り乱れている。「精ドーダ面白いか。」「あつい」と云いつつ藁帽をぬいで筒袖で額を撫《な》でた。「サーそろそろ行きましょう。モット下へ行って見ましょ。」小津《おず》神社の裏から藪ふちを通って下へ下へと行く。ところどころ籾殻《もみがら》を箕《み》であおっている。鶏は喜んであっちこちこぼれた米をひろっている。子供が小流で何か釣っている。「鮒《ふな》か。」「ウン。」精の友達らしい。いつの間にか要太郎が見えなくなったと思うていると遥か向うの稲村《いなむら》の影から招いている。汗をふきふきついて行った。道の上で稲を扱《こ》いている。「御免なさいよ。」「アイ御邪魔でございます。」実際邪魔
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