をやった。間もなく来たから連れ立って裏門を出た。バッタが驚いて足下から飛び出した。「いくら汚れてもよいように衣物《きもの》を着換えて来たね。」精は無言でニコニコしている。足には尻の切れた草履《ぞうり》をはいている。小川を渡って三軒家《さんげんや》の方へ出る。あちこちに稲を刈っている。畔《あぜ》に刈穂を積み上げて扱《こ》いている女の赤い帯もあちらこちらに見える。蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]《とんぼ》が足元からついと立って向うの小石の上へとまって目玉をぐるぐるとまわしてまた先の小石へ飛ぶ。小溝に泥鰌《どじょう》が沈んで水が濁った。新屋敷の裏手へ廻る。自分と精とは一町ばかり後をついて行く。北の山へ雲の峰が出て新築の学校の屋根がきらきらしているが風は涼しい。要太郎が手を上げたから余等は立止って道にしゃがんだ。久万川《くまがわ》の土手に沿うた一丸の二番稲があってその中に鴫が居ると見える。網を斜めに下向けてしきりにねらっている。自分等も息を殺して見ているとたちまち頭の上でばさ/\と音がする。蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]《とんぼ》が傘にとまっていたのが外《ほか》のとん
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