が壁面に高く低く踊りながら進行してそれがなんとなく一種の鬼気を添えるのだが、この芝居では、そのびっこを免職させてそれを第二幕の酒場の亭主《ていしゅ》に左遷している。そうしてそこではびっこがなんの役にも立たないむしろ目ざわりなうるさい木靴《サボ》の騒音発声器になっているだけである。
終末の幕切れに教授の死を弔う学生の「アーメン」にいたっては、蛇足にサボをはかせたようなものではないかと思われた。
大学教授連盟とかいう自分にはあまり耳慣れない名前の団体から、このような芝居は教育界の神聖を汚すものだと言って厳重な抗議があったので、それに義理を立てるためにこのアーメンを付加したのだといううわさがある。これも後世の参考と興味のために記録に値する出来事であろう。
ウンラートが気が狂ったのを見て八重子《やえこ》のポーラが妙な述懐のようなことを述べるせりふがあるが、あれはいかにも、ああした売女の役をふられた八重子自身が贔屓《ひいき》の観客へ対しての弁明のように響いて、あの芝居にそぐわないような気がした。ポーラはやはり浮き草のようなポーラであるところにこの劇の女主人公としての意義があり、そこに悲劇が
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