に祭官、巫術《ふじゅつ》師らの行なった仕事の一部は今日では彼らの後裔《こうえい》の科学者の手によって行なわれておるべきはずである。そうして、ある見方で見れば実際それがそうなっているのである。たとえば五穀の収穫や沿海の漁獲や採鉱|冶金《やきん》の業に関しては農林省管下にそれぞれの試験場や調査所などがあって「科学的政道」の一端を行なっており、疫病流行に関しては伝染病研究所や衛生試験所やその他いろいろの施設があり、風水《ふうすい》旱害《かんがい》に関しても気象台や関係諸機関が存在しているようである。これらの政府の諸機関は、少なくもその究極の目的においては、昔の祭官や巫術者のそれと共通なものをもっていることは事実である。
昔の為政者の仕事のうちで今日の見地から見て科学的と考えられるものは上記のごとき宗教的色彩あるもののほかにもいろいろあった。たとえば、天智《てんじ》天皇のみ代だけについて見ても「是《この》歳《とし》水《みず》碓《うす》を造り而《て》冶《かね》※[#「金+截」、134−1]《わかす》」とか「始《はじめ》て漏剋《ろうこく》を用う」とか貯水池を築いて「水城《みずき》」と名づけたとか
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