いったようなものも民族の統治者の主権のもとに行なわれてそれが政治の重要な項目の一つになっていたように思われる。
 そうした祭祀《さいし》や魔術の目的はいろいろであったろうが、その一つの目的はわれわれ人間の力でどうにもならない、広い意味での「自然」の力を何かしら超自然の力を借りて制御し自由にしたいという欲望の実現ということにあったようである。たとえば、五穀の豊饒《ほうじょう》を祈り、風水害の免除をいのり、疫病の流行のすみやかに消熄《しょうそく》することを乞《こ》いのみまつったのである。かくして民族の安寧と幸福を保全することが為政者の最も重要な仕事の少なくも一部分であったのである。
 この重要な仕事に連関して天文や気象に関する学問の胚芽《はいが》のようなものが古い昔にすでに現われはじめ、また巫呪《ふしゅう》占筮《せんぜい》の魔術からもいろいろな自然科学の先祖のようなものが生まれたというのは周知のことである。このように「自然」を相手の仕事から自然の研究が始まり、それがついに自然科学にまで発達するということは全く当然な過程であると言わなければならない。
 そうだとすると、昔の主権者為政者のもと
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