の泥沼《どろぬま》に足を踏み込んだり、思わぬ陥穽《かんせい》にはまって憂《う》き目を見ることもある。三種の型のどれがいけないと言うわけではない。それぞれの型の学者が、それぞれの型に応じてその正当の使命を果たすことによって科学は進むのであろう。
 それはとにかく、この三型を識別するための簡単で手近なメンタルテストの問題として「黒焼き」の問題が役立つのはおもしろい。
 炭は炭でもそのコロイド的内部構造の相違によって物理的化学的作用には著しい差がある場合もあるから、蛇《へび》の黒焼きとたぬきの黒焼きで人体に対する効果がなにがしか違わないとは限らない。またわずかな含有灰分の相違が炭の効果に著しい差を生ずることも可能なのは他の膠質現象《こうしつげんしょう》から推して想像されなくはない。
 臓器から製した薬剤の効果がその中に含有するきわめて微量な金属のためであって、その効果はその薬を焼いて食わせても変わらないらしいという説がある。しかし、それかと言ってその金属の粉をなめたのでは何もならない。ここに未知の大きな世界の暗示がある。
 こうした不思議は畢竟《ひっきょう》コロイドというものの研究がまだ幼稚
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