を言ってる鼻の先へもって来てポペンポペンとやられると、あらゆる論理や哲学などが一ぺんに吹き散らされるところに妙味があったようにも思われる。
[#地から3字上げ](昭和十年一月、中央公論)

     六 干支の効用

 去年が「甲戌《きのえいぬ》」すなわち「木《き》の兄《え》の犬《いぬ》の年」であったからことしは「乙亥《きのとい》」で「木《き》の弟《と》の猪《い》の年」になる勘定である。こういう昔ふうな年の数え方は今ではてんで相手にしない人が多い。モダーンな日記帳にはその年の干支《かんし》など省略してあるのもあるくらいである。実際|丙午《ひのえうま》の女に関する迷信などは全くいわれのないことと思われるし、辰年《たつどし》には火事や暴風が多いというようなこともなんら科学的の根拠のないことであると思われるが、しかしこれらは干支の算年法に付帯して生じた迷信であって、そういう第二義的な弊が伴なうからと言って干支の使用が第一義的に不合理だという証拠にはならない。昔から長い間これが使われて来たのはやはりそれだけの便利があったからである。
 十と十二の最小公倍数は六十であるから十干十二支の組み合わせ
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