くのである。また吸い出しては食い切る。きたないと言えばきたないが、しかしそこには一種の俳諧《はいかい》があった。つい近ごろどこかのデパートでこれと同じものを見つけたが食ってはみなかった。おそらく四十年前の味は求められないであろう。
おもちゃではポペンというものが一時流行した。首の長いガラスのフラスコの底板を思い切り薄くして少しの曲率をもたせて彎曲《わんきょく》させたものである。その首を口にふくんで適当な圧力で吹くと底のガラスの薄板がポンという音を立ててその曲率を反転する。逆に吸い込むとペンと言ってもとの向きに彎曲する。吹くのと吸うのを交互に繰り返すと、ポペン/\/\というふうな音を出す。吹き方吸い方が少し強すぎるとすぐに底が割れてしまう。いわゆるその「呼吸」がちょっとむつかしい。これを売っている露店商は特製特大の赤ん坊の頭ぐらいのを空に向けてジャンボンジャンボンと盛んに不思議な騒音を空中に飛散させて顧客を呼んだものである。実に無意味なおもちゃであるがしかしハーモニカやピッコロにはない俳味といったようなものがあり、それでいて南蛮的な異国趣味の多分にあるものであった。
むきになって理屈
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