るべしというがごとし。これらの予報が普通世人にとりて実用的価値を有するための条件は、思うに「その現象のために利害を感ずべき個人あるいは団体の利害を感ずる範囲領域の大きさに対して、予報の指定する範囲の大きさが比較的大ならず、且つ前者に対する後者の位置の公算的変化の範囲の小なる事」なり。
具体的の例を挙ぐれば、東京市民にとりては「明日正午まで京浜地方西北の風晴」と云い、あるいは「本日午後驟雨模様あり」というがごときは多数の世人に有用有意義なり。またもし「一週間内に東海道の大部分に降雨あるべし」との予報をなし得たりとせば、東京市民にとりては極めて漠然たる印象を与うべし。これ予報の範囲が東京市民の日常生活上雨に関して利害を感ずる範囲に比してあまりに大なるが故なり。しかれども連日雨に渇する東海道の農民にとりては、この予報は非常の福音たるに相違なかるべし。
次に地震の場合は如何。もし仮りに「来る六、七月の頃、東京地方に破壊的地震あるべし」との予報が科学的になし得られたりと仮定せよ。これが十分の公算を有する事が明らかなれば、市民は十分の覚悟をもって変に備うべし。次に「今後五十年内に日本南海岸のう
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