度を知りてその分子各箇の運動を知らんとすると同様なる誤解に起因す。
四
次に地震予報の問題に移りて考えん。地震の予報は果して可能なりや。天気予報と同じ意味において可能なりや。
地震が如何にして起るやは今もなお一つの疑問なれども、ともかくも地殻内部における弾性的平衡が破るる時に起る現象なるがごとし。これが起ると否とを定むべき条件につきては吾人いまだ多くを知らず。すなわち天気の場合における気象要素のごときものがいまだ明らかに分析されず。この点においても既に天気の場合と趣を異にするを見る。
地殻の歪《ひず》みが漸次蓄積して不安定の状態に達せる時、適当なる第二次原因例えば気圧の変化のごときものが働けば地震を誘発する事は疑いなきもののごとし。故に一方において地殻の歪みを測知し、また一方においては主要なる第二次原因を知悉《ちしつ》するを得れば地震の予報は可能なるらしく思わる。この期待は如何なる程度まで実現され得べきか。
地下の歪みの程度を測知する事はある程度までは可能なるべく、また主なる第二次原因を知る事も可能なるべし。今仮りにこれらがすべて知られたりと仮定せよ。
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