がある時間内にある村の上を多く過ぐるか少なく過ぐるかは、時にはその村民にとりてはかなり重大なる場合もあるべし。小区域の驟雨《しゅうう》が某市街を通過するか、その近郊のみを過ぐるかはその市民にとりては無差別にはあらず。しかれどもかくのごとき小規模の現象の予報をなし得るためには、(この予報が可能としても)少なくも測候所の数を現在の数百倍数千倍に増加せざるべからず。
現在の天気予報はかくのごとき要求を充たすためのものにあらず。各測候所の平均領域の幅員に比して微細なる変化は度外視し、定時観測期間の長さに比して急激なる変化をも省略して近似的等温線あるいは等圧線を引くに過ぎず。例えば土地山川の高低図を作る際に、道路の小凹凸、山腹の小さき崖崩れを省略するに同じ。これを省《はぶ》くとも鉄道運河の大体の設計にはなんらの支障を生ずる事なかるべし。これに反して荷車を挽《ひ》く労働者には道路の小凹凸は無意味にあらず。墓地の選定をなさんとする人には山腹の崖崩れは問題となるべし。
世人の天気予報に対する誤解と不平は畢竟《ひっきょう》この点に係る。二十万分の一の地図を手にして道路の小凹凸を索《もと》め、物体の温
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