壊が起こり始めたが最後、もう始めの微分方程式も境界条件も全部無効になるから、これらの理論はその後の事がらについては全く一言の権利もなくなってしまう。それで、たとえば理論から出した最大|剪断応力《せんだんおうりょく》の趨向《すうこう》を示す線系が、実物試片のリューダー線や、「目に見える割れ目」とだいたい一致していたとしても、それは言わば偶然であって、必ずしもそうならなければならないというだけの根拠はまだ具備していないのである。それはいいとしても、ここでもまた、並行した割れ目の週期性に関する説明となると、現在のところでは全く何事もわかっていないと言わなければならない。だれであったか先年ドイツの雑誌で単晶の針金のすべり面の数が針金の弾性的高周波振動できまるという説を出したことがあったようであったが、これもあまりふに落ちない説であった。自分もかつて、砂層の変形の繰り返しによって生ずる週期的すべり面の機巧から推して、単晶体の週期的すべり面の機巧を予想してみたこともあったが、これとても決して充分だと思われない、最近にガラス面に沿うて電気火花を通ずる時にその表面にできる微細な顕微鏡的な週期的の割れ目
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