独自の属性は失われる。たとえば人間を通じて景色が見えるのでは、人間はもはや人間でなくて幽霊になってしまう。しかし音の重なる場合には二つのものはそれぞれ単独にある場合の独立性を失わない。
 この事実はトーキー製作者の利用のしかたによっては、いろいろの可能性を生み出すであろう。現在でもすでにかなり利用されてはいるようである。簡単平凡な例を取れば、対話中に来訪者のベルを響かせて、次に現われて来る人間を紹介する類である。しかしまだその方面で幾多のおもしろい新しい試みができるであろうと思われる。
 普通の発声映画の場合には色彩は問題にならない。カメラの目は全色盲だからである。しかし音の音程や音色は実にヴァイタルな重要性をもっている。ソプラノがベースに聞こえたりうぐいすの声が鵞鳥《がちょう》のように聞こえるのでは打ちこわしである。前述のピストルの場合でも音の強度より音色のほうが大切である。近いピストルの音と遠いピストルの音との差は、単なる強度《インテンシテイ》の差でなくて著しい音色《チンパー》の差である。それは雑音の中に含まれるいろいろな波長の音波が、それぞれ回折や分散の模様のちがうために起こる現
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