耳と目
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)基線《ベースライン》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)光線|伝播《でんぱ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](昭和八年五月、映画評論)
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 耳も目も、いずれも二つずつ、われわれの頭の頂上からほぼ同じ距離だけ下がった所に開いている。目のほうは前面に二つ並んでほぼ同じ方向を向いているのに耳のほうは両側にあって、だいたいにおいて反対の方向に向いている。もっとも耳たぶがあるために各方の耳が精確にどちらに向いているかという事はそう簡単に言われないが、しかし、この平凡な事実は考えてみるといろいろなおもしろい意義をもっている。
 二つずつあるのは空間知覚のためであって、二つの間の距離が空間を測量するための基線《ベースライン》になるのである。耳と目とが同じ高さにあるのは視覚空間と聴覚空間との連絡、同格化《コーオルディネーション》のために便利であろうと思われる。ところが光線|伝播《でんぱ》は直線的であるので二つの目が同時に対象に向かっていなければな
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