を提供するかもしれない。
 このおもちゃは、たしかに二十年も前にやはり夜店で見たことがあるから、かなり昔からあるかもしれない。もしこれが日本人の発明だとしたらたしかに自慢のできるものである。事によるとシナから来たかもしれない。玩具《がんぐ》研究家の示教を得れば幸いである。
 こんな巧妙なものでも、時代に合わず、西洋からはやってこない限りたいして商売にはならないらしい。
 二十年前に見た時に感心したのは売り手のじいさんの団扇《うちわ》の使い方の巧妙なことであった。団扇の微妙な動かし方一つでおどけた四角の紙の獅子《しし》が、ありとあらゆる、「いわゆる獅子」の姿態をして見せる。つくづく見ていると、この紙片に魂がはいって、ほんとうに二匹の獅子が遊び戯れ相《あい》角逐《かくちく》しまた跳躍しているような幻覚をひき起こさせた。真に入神の技であると思って、深い印象を刻みつけられたことであった。あやつり人形の糸の代わりに空気の渦《うず》を使っているのだから驚く価値があるのである。これもやはり錯覚を利用する芸術である。
 それが、昭和八年の夜店に現われたところを見ると、昔の紙の障子はセルロイドの円筒形ス 
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