ほうが便利であると見える。書物でも、やはりヨーヨーのようなものである。
話はちがうが、せんだって日比谷《ひびや》で「花壇展覧会」というものがあった。いろいろのばらがあった中に、柱作りの紅ばらのみごとなのが数株並んでいた。燃えるような緋紅色《ひこうしょく》の花と紫がかった花とがおもしろく入り交じって愉快な見ものであった。なんという名のばらか知りたいと思ったが、現場には、品種名の建て札もなく、まただれの出品かもわからなかった。数日後にまた日比谷で「ばらの展覧会」が開かれたので出かけて行って、行き当たりばったりに会の係りの人に先日の柱作りの品種を聞いてみたがわからない。そのうちに、あれはたしか横浜《よこはま》のS商会の出品だったから、あちらの同商会の出張所で聞いてみたらいいだろうと教えてくれる人があった。それでさっそくそのS商会の陳列所へ行くと、係りの店員は先日の「花壇展覧会」は見なかったから知らないという。いろいろ問答をしてそこに出陳されている切り花を点検した結果、たぶんそれはローヤル・スカーレットと称する品種であるらしいというくらいのところまではやっとこぎつけることができた。
こんな
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