ンと称えて顕微鏡でも見えぬしかもそれぞれ電気を帯びた微分子である。滴があまり細かいから空気の摩擦に支えられて容易に地に落ちず空中に浮かんでいる。野山の霧は消えやすいに反して市街の霧が消散し難いのは水滴の核になる塵の差違から起るという事である。霧で有名なはロンドンで、石炭や煤の粉交じりだから特別な不快な色をしている。そしてこの霧は市の上に限られて少し市外へ出れば無くなる。つまり市中の工場や住家から立昇る煙が霧の核を多量に供給しているためであろう。この霧を散らせるために大砲などを発火して試験をしている。市街の煤煙と同様に火山の煙も霧の発生を助けるものである。もう一つ霧で有名なのはニューファウンドランド島の近海で、ここは暖流と寒流の出会うために春から夏へかけては霧が深くて航海が危険である。三十七、八年の戦役に我が艦隊を悩ました濛気《もうき》もこの従兄弟《いとこ》のようなものであろう。また船乗の恐れる海坊主というのは霧の濃いかたまりだという説がある。とにかく霧は航海には厄介なもので、この障害を防ぐために霧笛、霧砲などというものが色々工夫された。[#地から1字上げ](明治四十一年九月三十日『東京
前へ 次へ
全12ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング