分点あるいは春分点が天を一廻りして旧位に帰るまでには二万五、六千年の星霜を経ねばならぬ。今から一万二、三千年の子孫の世には北極はとんでもない天《あま》の河《がわ》のはずれを向いて、七夕の星が春見えるような事になる。こんな変化の起る訳は地球の自転の軸が独楽《こま》の軸と同じように徐々に味噌摺り運動をやるためである。[#地から1字上げ](明治四十一年九月二十六日『東京朝日新聞』)
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六
霧
霧の出来方には色々ある。夜地面に近い空気がだんだんに冷えて来るために水蒸気が細かい滴《しずく》になって空中に浮游すればすなわち霧である。また湿気を帯びた温かい風が森や山腹の冷たい処に触れる場合や黒潮と親潮が出会うて温かい空気と冷たい空気が混ずる場合などにも起る。いずれにしても空中の水蒸気が凝《こ》って水滴となったもので実質においては雲と少しも異なっておらぬ。この滴が大きくなれば雨である。霧の滴の大きさは色々あるが、直径おおよそ一|分《ぶ》の百分一くらいのもので一滴ごとに凝結の中心となるべき核をもっている。この核となるものは極微な塵埃やまた物理学者がイオ
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