内ようよう五枚出来たそうで、それも穴だらけに出来て中に破れて繕《つくろ》ったのもあるが、それが却《かえ》って一段の趣味を増しているようだと云うたら子規も同意した。巧みに古色が付けてあるからどうしても数百年前のものとしか見えぬ。中に蝸牛《かたつむり》を這わして「角《つの》ふりわけよ」の句が刻してあるのなどはずいぶん面白い。絵とちがって鋳物だから蝸牛が大変よく利いているとか云うて不折もよほど気に入った様子だった。羽織を質入れしてもぜひ拵えさせると云うていたそうだと。話し半《なか》ばへ老母が珈琲《コーヒー》を酌んで来る。子規には牛乳を持って来た。汽車がまた通って※[#「虫+召」、第4水準2−87−40]※[#「虫+僚のつくり」、第4水準2−87−82]《つくつくほうし》の声を打消していった。初対面からちと厚顔《あつかま》しいようではあったが自分は生来絵が好きで予《かね》てよい不折の絵が別けても好きであったから序《ついで》があったら何でもよいから一枚|呉《く》れまいかと頼んで下さいと云ったら快く引受けてくれたのは嬉しかった。子規も小さい時分から絵画は非常に好きだが自分は一向かけないのが残念でた
前へ
次へ
全13ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング