高浜さんと私
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)「虚子《きょし》の人と芸術」について
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その頃|流行《はや》った
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和五年四月、改造社『現代日本文学全集』月報)
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高浜さんとはもうずいぶん久しく会わないような気がする。丸ビルの一階をぶらつく時など、八階のホトトギス社を尋ねて一度昔話でもしてみたいような気のすることがある。今度改造社から「虚子《きょし》の人と芸術」について何か書けと言われたについて、その昔話をペンですることにする。
三十余年前のことである。熊本の高等学校を出て東京へ出て来るについて色々の期待をもっていたうちでも、一つの重要なことは正岡子規を訪問することであった。そうして、着京後間もなく根岸《ねぎし》の鶯横町《うぐいすよこちょう》というのを尋ねて行った。前田邸の門前近くで向うから来る一人の青年が妙に自分の注意を引いた。その頃|流行《はや》った鍔《つば》の広い中折帽を被《かぶ》って縞の着物、縞の
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