自分の見た中にはどうも雄蕊雌蕊《おしべめしべ》を兼備しているらしいものも見えた。
 カワラマツバの小さな四弁花は弁と弁との間から出た雄蕊がみんな下へ垂れ下がって花心から逃げ出しそうにしている。ウツボグサの紫花の四本の雄蕊は尖端が二《ふ》た叉《また》になっていて、その一方の叉には葯《やく》があるのに他の一方はそれがなくて尖《とが》ったままで反り曲っている。こうした造化の設計には浅墓《あさはか》なわれわれには想像もつかないような色々の意図があるかもしれないという気がする。
 以上のような花に比べると例えばホタルブクロのような大きな花は却って二十倍くらいに廓大《かくだい》して見てもそれ程びっくりするような意外な発見はないようであった。しかしもっと色々見ていたらまた珍しい見物に出っくわさないとも限らないであろう。
 ある花はこんなに細小でまたある花は途方もなく大きい。これも不思議である。細かい花は通例沢山に簇出《そうしゅつ》しているような気がする。これも不思議である。そうして多くの草の全体重と花だけの総体重との比率にはおおよそ最高最低限度がありそうな気がしてこれも何かわれわれのまだ知らない科学
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