高原
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)沓掛《くつかけ》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)野天|吹曝《ふきさら》しの

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和十年九月『家庭』)

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ワッショイ/\/\
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 七月十七日朝上野発の「高原列車」で沓掛《くつかけ》に行った。今年で三年目である。駅へ子供達が迎いに来ていた。プラットフォームに下り立ったときに何となく去年とはあたりの勝手が違うような気がしたがどこがどうちがったかということがすぐとは気が付かなかった。子供に注意されて気がついて見るとなるほどプラットフォームに屋根が新築されて去年から見るとよほど停車場らしくなっている。全く予期しないものは眼に写っても心には写らないのである。
 一昨年初めて来たとき、軽井沢駅のあの何となく物々しい気分に引きかえてこの沓掛駅の野天|吹曝《ふきさら》しのプラットフォームの謙虚で安易な気持がひどく嬉しかったことを思い出した。
 
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