集まる」ということわざは植物にも当てはまるようである。しかし、それは、植物が意識して集まって来るのではなくて、同じ環境がおのずから同種の生命を養う、と言ったほうがもっともらしいように思われるのである。
 そうかと思うとたとえば、紫紅色の「つりふね草」は湿潤な水辺に多いが、これとよく似て黄色い「黄つりふね草」は、少なくもこの地では、丘の上や山腹に多いように見える。
 植物の果実のことだけを詳しく取り扱ったいわゆるカルポロジーの本を読んだときに、乾燥すると子房がはじけて種子をはじき飛ばすものの特例の一つとして Impatiens noli−tangere というものが引き合いに出ていた。インパチェンスは鳳仙花《ほうせんか》の類の一般的な名前らしいが、ともかくも「かんしゃく」である。ノリ・タンゲレは「さわられるのがいや」である。どんな植物だか知りたいと思いながら、ついついそのままになっていた。ところが、ここへ来てある朝「黄つりふね草」を見つけて、図鑑と引き合わせてみると、なんと、これがすなわち紛れもない「かんしゃく持ちのさわるな草」であったのである。そこでさっそくその有名な実を捜したが一つも
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