むを得ない。
そういう場合における品種鑑別の正確度に関する疑いをいっそう強められるようになったのは、非常によく似ていて、しかも少しずつちがうというような草の種類が非常に多いという事実に気がついたからである。たとえば「いぬごま」とか「かわみどり」とかいうものの兄弟|従兄弟《いとこ》といったようなものだけでも、いったいどのくらいあるかちょっと見当がつかないくらいである。このへんにたくさんあってだれにもいちばんに目につく「ししうど」と称するものでも、みんながはたして同じものかどうか子細に見ていると疑わしくなって来る。
もう一つ気がついておもしろいと思ったことは、何か一つの植物があるときっとその近所にそれとよく似た別の植物が見つかるということである。たとえば「松虫草」と「なべな」、「ほたるぶくろ」と「つりがねにんじん」といったようなものである。そういう類縁関係をたどって行くと、はじめは全く似たところがないと思っていたものが、だんだんに少しずつ似たところを暴露して来るのである。これと同じようなことが、どうも、人間の相貌《そうぼう》などについても、言われるような気がするのである。
「類をもって
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