の春は 〔baha'r〕, 蒙古《もうこ》(カルカ)語では h'abor である。ドイツ語の 〔Fru:hling〕 は 〔fru:h〕 から来たとすればこれはfとrである。かなで書くとみんなハ行とラ行と結びついている点に興味がある。アイヌ語の春「パイカラ」はだいぶちがうが、しかしpをbに、kをhに代えるとおのずからペルシアの春に接近する。この置き換えは無理ではない。
「張る」「ふえる」「腫《は》るる」などもhまたはfにrの結合したものである。full, voll, πλ※[#アキュートアクセント付きε、188−上−6]ω※[#ギリシア小文字ファイナルSIGMA、1−6−57] なども連想される。
 夏(ナツ)と熱(ネツ)とはいずれもnとtの結合である。現代のシナ音では、熱は jo の第四声である。「如」がジョでありニョであり、また「然」がゼンでありまたネンであると同じわけである。蒙古語《もうこご》の夏は 〔ju:n〕 である。朝鮮語《ちょうせんご》の「ナツ」は昼である。しかし朝鮮語で夏を意味する言葉は「ヨールム」で熱がヨールである。yをjに、語尾のrをtにすると(この置き換えもそれほど
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