も、はたのものが承知しないで、頼まれもせぬ同情者となって陶工の「不徳義」を責めるような事件が起こることもある。陶工の得た名声や利得が大きければ大きいほど、こういう事件の持ち上がる確率が大きいようである。
文学上の作品などでも、よくこれに類した「剽窃《ひょうせつ》問題」が持ち上がる事がある。大文豪などはほとんど大剽窃家である。
哲学者科学者皆そうである。アリストテレースなどは贓品《ぞうひん》の蔵を建てた男である。仕事が大きいほど罪も深い。
ダーウィンが彼の進化論をまとめ上げて、それが一般に持てはやされた時代には、おそらくダーウィンに対して前述の粘土供給者と同様の怨恨《えんこん》をいだき、ダーウィンを盗賊呼ばわりしたものが三人や五人は必ずあったであろうと想像される。これほど大きな仕事でなくても、もっと小さな科学者の小さなアルバイトについても、たとえば一人の教授がその弟子《でし》の労力の結果を利用して一つの小さな系統化を行ない、一つの小さな結論をまとめた場合に、その弟子が「自分の粉骨砕身の努力の結果を先生がそっくりさらって一人でうまい汁《しる》を吸った」と言って恨む場合や、また先生と弟
前へ
次へ
全23ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング