思っていた。今の米国人の中にでも黒人は人間と思っていない仲間があることはリンチの事実が証明する。
北氷洋の白熊は結局、カメラも鉄砲も繩《なわ》も鎖もウインチも長靴《ながぐつ》も持っていなかったために殺され生け捕られたに過ぎないように思われる。
二 製陶実演
三越《みつこし》へ行ったら某県物産展覧会というのが開催中であって、そこでなんとか焼きの陶器を作る過程の実演を観覧に供していた。回転台の上へ一塊の陶土を載せる。そろそろ回しながらまずこの団塊の重心がちょうど回転軸の上に来るように塩梅《あんばい》するらしい。それが、多年の熟練の結果であろうが、はじめひょいと載せただけでもう第一近似的にはちゃんと正しい位置におかれている、それで、あとはただこの団塊をしっかり台板に押しつけ固着させるための操作を兼ねて同時にほんの少しの第二近似を行なうだけである。さて、このすえ付け作業がすむと今度は、両手を希薄な泥汁《どろじる》に浸したのちに、その手で回転する団塊の胴を両方から押えながら下から上へとだんだんなで上げると、今まではただの不規則な土塊であったものが、「回転的対称」という一つの統整
前へ
次へ
全23ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング