などをよこしたかが不思議に思われた。どうも、このフリージアの種は、やはりK市の姉のほうから縁を引いたものではないかと思われてしかたがなかった。夫婦暮らしで比較的閑散な田園生活を送っている甥が、西洋草花を栽培しているのは自然な事だと思うだけではなんだか物足りないように思われるのであった。
堅吉はすぐ甥にあててはがきを書いて、受取と礼の言葉を述べた末に、手跡の不思議と球根の系図に関する想像を書いてやった。
なんとか返事があるかと思って待っていたが十日たってもついに来なかった。考えてみると彼は別に返事を要求するようなふうの書き方をしたわけではなかった。少なくも甥のほうではそうは取らなかったに相違ない。
もう一度わざわざそんなことを聞いてやるのも、おかしいと思ってそれきりにしてしまった。
花壇の縁に植えた球根はじきに芽を出して勢いよく延びて行った。堅吉はこの草の種を絶やさないでおけば、いつかは彼の「不思議」を明らかにする機会が来るだろうと思っている。しかしそれは――だれが知ろう。
自分の内部の世界のすみからすみまでを照らし尽くすような気がしても、外の世界とちょっとでも接触する所には、
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