し得られる問題であろうと思われる。

     二 九官鳥の口まね

 せんだって三越《みつこし》の展覧会でいろいろの人語をあやつる九官鳥の一例を観察する機会を得た。この鳥が、たとえば「モシモシカメヨカメサンヨ」というのが、一応はいかにもそれらしく聞こえる。しかしよく聞いてみると、だいたいの音の抑揚《アクセント》と律動《リズム》が似ているだけで、母音も不完全であるし、子音はもとより到底ものになっていない。これは鳥と人間とで発声器の構造や大きさの違うことから考えて当然の事と思われる。問題はただ、それほど違ったものが、どうして同じように「聞こえる」かということである。思うに、これに対する答えはざっと二つに分析されるべきである。その一つは心理的な側からするものであって、それは、暗示の力により、自分の期待するものの心像をそれに類似した外界の対象に投射するという作用によって説明される。枯れ柳を見て幽霊を認識する類である。もう一つの答解は物理的あるいはむしろ生理的音響学の領域に属する。そうしてこれに関してはかなり多くの興味ある問題が示唆されるのである。
 われわれの言語を言語として識別させるに必要
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