烽キえられていて、天井には大きな扇風器が回っている。田舎《いなか》から始めて来た人などに、ここで汁粉《しるこ》かアイス一杯でもふるまうと意外な満足を表せられる事がある。ここの食卓へ座をとって、周囲の人たち、特に婦人の物を食っているさまを見ると一種の愉快な心持ちになって来る。ある人のいうようにあさましいなどという感じは自分には起こらない。呉服売場や陳列棚《ちんれつだな》の前で見るような恐ろしい険しい顔はあまりなくって、非常に人間らしい親しみのある顔が大部分を占めている。この食堂を発案したのはだれだか知らないが、その人はいろいろな意味でえらい人のように思われる。
食堂のほかには食品を販売する部が階下にある。人によると近所の店屋で得られると同じ罐詰《かんづめ》などを、わざわざここまで買いに来るということである。買い物という行為を単に物質的にのみ解釈して、こういう人を一概に愚弄《ぐろう》する人があるが、自分はそれは少し無理だと思っている。
ベルリンのカウフハウスでは穀類や生魚を売っていた、ロンドンの三越のような家では犬や猿《さる》や小鳥の生きたのを売っていた。生魚はすぐ隣に魚河岸《うおがし
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