ナ蕎麦が食われる。こんなつまらない事を考えたりする。「駿河町《するがちょう》」の絵を見ると、正面に大きな富士がそびえて、前景の両側には丸に井桁《いげた》に三の字を染め出した越後屋《えちごや》ののれんが紫色に刷られてある。絵に記録された昔の往来の人の風俗も、われわれの目には珍しくおもしろい、中でも著しく自分の目につくのは平和な町の中を両刀をさして歩いている武士の姿である。
富士山の見える日本橋に「魚河岸《うおがし》」があって、その南と北に「丸善」と「三越」が相対しているのはなんだかおもしろい事のように思われる。丸善が精神の衣食住を供給しているならば三越や魚河岸は肉体の丸善であると言ってもいいわけである。
三越の玄関の両側にあるライオンは、丸善の入り口にある手長と足長の人形と同様に、むしろないほうがよいように思われる。玄関の両わきには何か置かなければいけないという規則でもあるのなら、そういう規則は改めたほうがいいと思う。
入り口をはいると天井が高くて、頭の上がガランとしているのは気持ちがいい。桜の時節だとここの空に造花がいっぱいに飾ってあったりして、正面の階段の下では美しい制服を着た
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