ュ年が合奏をやっている事もあった。いろいろな商品から出るにおいと、多数の顧客から蒸し出されるガスとで、すっかり入場者を三越的の気分にしてしまう。
自分が用のあるのは大概五階か六階であるから、多くの場合にすぐ昇降機で上ってしまう。しかし、時にはすべての階をすみからすみまで歩かせられる事もある。歩いてみるとやはり歩いてみるだけの価値は充分にある。ずいぶんいろいろの物を覚えいろいろの問題にぶつかる、そしていろいろの人間のいろいろの現象を見せてもらう事ができる。
世の中にはずいぶんいろいろな事が自慢になるものだと思う。ある婦人は月に幾回三越に行くという事を、時と場所と相手とにかまわず発表して歩く。またある学者は、まだ一度も三越に行った事がないという事を宣言するのを、その人のある主張を発表する簡易な方法の一つとして選んでいるように思われる。しかし自分のみならず多くの人は、三越に行く事を別に名誉とも恥とも思ってはいまい。
正面の階段の上り口の左側に商品切手を売る所がある。ここはいつでも人が込み合っていて数百円のを持って行く人もあれば数十円のを数十枚買って行く人もある。そうかと思うと一円のを一
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