Aさもなければ高い金を払わなければならない物が安く得られるのである。戦争のために、この本の代価までが倍に近く引き上げられた事は、自分ばかりでなく多数の人の痛切に感じる損失であろうと思う。
この叢書の表紙の裏を見ると“Everyman, I will go with thee and be thy guide in thy most need to go by thy side.”という文句がしるされてある。この言葉は今日のいわゆる専門主義《スペシアリズム》の鉄門で閉ざされた囲いの中へはあまりよくは聞こえない。聞こえてもそれはややもすれば悪魔の誘惑する声としか聞かれないかもしれない。それだから丸善の二階でも各専門の書物は高い立派なガラス張りの戸棚《とだな》から傲然《ごうぜん》として見おろしている。片すみに小さくなっているむき出しの安っぽい棚《たな》の中に窮屈そうにこの叢書《そうしょ》が置かれている。
たとえば、昔の人は、見晴らしのいい丘の頂に建てられた小屋の中に雑居して、四方の窓から自由に外をながめていた。今では広大な建築が、たくさんの床と壁とで蜂《はち》の巣のように仕切られ、人々は
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