空に遁《にが》してしまった。
惜しいというよりはかわいそうな気がした。
夕方家へ帰って見ると、見馴れぬ子猫が一匹いる。
死んだ「ボウヤ」にそっくりの白い猫である。
今朝、どこからか迷って来たのが、もうすっかりなついてしまって、落ち着いているのだそうである。
それを聞いた時に、ちょっと不思議な気がした。
どうも以前に一度、やはり小鳥が死ぬか逃げるかした同じ日に、子猫が迷い込んで来たことがあったような記憶がある。それと同じ出来事が、今日再び繰り返して起こったような気がするのである。
しかし、どうもはっきりしたことが思い出せない。
あるいはよくあるそういう種類の錯覚かもしれない。
拾ったと思ったら無くする、無くしたと思ったらもう拾っている。
おもしろいと思えばおもしろく、はかないと言えばはかなくもある。
この猫をひざへのせて夕刊を読んでいたら号外が来て、後継内閣組織の大命が政友会総裁に降《くだ》ったとある。犬養《いぬかい》さんは総理大臣を拾ったのである。
遁《に》げたカナリヤもだれかに拾われなければ餓え死ぬか凍え死ぬだろうと思う。[#地から1字上げ](昭和七年一月、渋
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