が光り輝いていた。
試みにその中のただ一つを掘り出してこの世の空気にさらすと、たちまちに色も光も消え褪《あ》せた一片の土塊《つちくれ》に変わってしまった。
同時に、霊山の岩の中に秘められたすべての宝石も、そのことごとくが皆ただの土塊に変わってしまった。
私の頭の中には、数限りもない美しい絵が秘蔵されていた。
私は試みに絵筆を取って、その中の一つを画布の上に写してみた。
……気のついた時はもう間に合わなかった。
……同時に頭の中のすべての美しい絵もみんな無残に塗り汚されてしまった。
そうして私はただのつまらない一画工になってしまった。[#地から1字上げ](大正九年十月、渋柿)
[#改ページ]
*
ロンドンの動物園へインドから一匹の傘蛇《コブラ》が届いた。
蛇には壁蝨《だに》が一面に取りついていた。
健全な蛇にはこの虫があまりつかないものである。
こんなことが先ごろの週刊タイムスに出ていた。
「この事実にはいろいろのモラールがある」
とAが言った。
「さらに多くの詩がある」
とBが答えた。[#地から1字上げ](大正九年十月、渋柿)
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