つの面を定める。
 しかし、この乙丙の面は、甲乙の面とは同平面ではなくて、ある角度をしている、すなわち面が旋転したのである。
 次に、丁がまた丙の線の続きを引く。
 アンド・ソー・オン。
 長、短、長短、合計三十六本の線が春夏秋冬|神祇《じんぎ》釈教《しゃっきょう》恋《こい》無常《むじょう》を座標とする多次元空間に、一つの曲折線を描き出す。
 これが連句の幾何学的表示である。
 あらゆる連句の規約や、去嫌《さりきらい》は、結局この曲線の形を美しくするために必要なる幾何学的条件であると思われる。[#地から1字上げ](昭和四年一月、渋柿)
[#改ページ]

       *

 石器時代の末期に、銅の使用が始まったころには、この新しい金属材料で、いろいろの石器の形を、そっくりそのままに模造していたらしい。
 新しい素材に、より多く適切な形式を発見するということは、存外容易なことではないのである。
 また、これとは反対に、古い形式に新しい素材を取り入れて、その形式の長所を、より多く発揮させることもなかなかむずかしいものである。
 詩の内容素材と形式との関係についても、同様なことが言われる。[
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