くよ、六月の雨は、寄せ集められて、最上川《もがみがわ》に」
「大波は巻きつつ寄せる、そうして銀河は、佐渡島《さどがしま》へ横切って延び拡がる」
このごろ、よんどころない必要から、リグヴェーダの中の一章句と称するもののドイツ訳を、ちょうどこんな調子で邦語に飜訳しなければならなかった。
そうして実ははなはだ心もとない思いをしていた。
今、右の俳句の英訳の再飜訳という一つの「実験」をやった結果を見て、滑稽《こっけい》を感じると同時に、いくらか肩の軽くなるのを覚えた。[#地から1字上げ](昭和三年三月、渋柿)
[#改ページ]
最上川|象潟《きさかた》以後
(はがき)今日《きょう》越後《えちご》の新津《にいつ》を立ち、阿賀野川《あがのがわ》の渓谷を上りて会津《あいづ》を経、猪苗代《いなわしろ》湖畔《こはん》の霜枯れを圧する磐梯山《ばんだいさん》のすさまじき雪の姿を仰ぎつつ郡山《こおりやま》へ。
それより奥羽線《おううせん》に乗り替え上野に向かう。
先刻|西那須野《にしなすの》を過ぎて昨年の塩原《しおばら》行きを想い出すままにこのはがきをしたため候《そうろう》。
まことに
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