までにひどくちがった環境に、それぞれ適応して生存を保ちうる能力があるかどうか疑わしい。[#地から1字上げ](大正十三年十月、渋柿)
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雑草をむしりながら、よくよく見ていると、稲に似たのや、麦に似たのや、また粟《あわ》に似たのや、いろいろの穀物に似たのがいくつも見つかる。
おそらくそれらの五穀と同じ先祖から出た同族であろうと想像される。
それが、自然の環境の影響や、偶然の変移や、その後の培養の結果で、現在のような分化を来たしたものであろう。
これらの雑草に、十分の肥料を与えて、だんだんに培養して行ったら、永い年月の間には、それらの子孫の内から、あるいは現在の五穀にまさる良いものが生まれるという可能性がありはしないか。
人間の種族についてもあるいは同じことが言われはしないか。[#地から1字上げ](大正十三年十一月、渋柿)
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第一流の新聞あるいは雑誌に連載されていた続きものが、いつのまにか出なくなる。
完結したのだか、しなかったのだか、はっきりした記憶もなしに忘れてしまう。
しばらく経てから、偶然の機会に
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