、渋柿)
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大道で手品をやっているところを、そのうしろの家の二階から見下ろしていると、あんまり品玉がよく見え過ぎて、ばからしくて見ていられないそうである。
感心して見物している人たちのほうが不思議に見えるそうである。
それもそのはずである。
手品というものが、本来、背後から見下ろす人のためにできた芸当ではないのだから。[#地から1字上げ](大正十三年八月、渋柿)
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「二階の欄干で、雪の降るのを見ていると、自分のからだが、二階といっしょに、だんだん空中へ上がって行くような気がする」
と、今年十二になる女の子がいう。
こういう子供の頭の中には、きっとおとなの知らない詩の世界があるだろうと思う。
しかしまた、こういう種類の子供には、どこか病弱なところがあるのではないかという気がする。[#地から1字上げ](大正十三年八月、渋柿)
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白山下《はくさんした》へ来ると、道ばたで馬が倒れていた。
馬方が、バケツに水をくんで来ては、馬の頭から腹から浴びせかけていた。
頸《くび》の
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