ながら、店々に並べられた商品だけに注目して見ていると、地震前と同じ銀座のような気もする。
 往来の人を見てもそうである。
 してみると、銀座というものの「内容」は、つまりただ商品と往来の人とだけであって、ほかには何もなかったということになる。
 それとも地震前の銀座が、やはり一種のバラック街に過ぎなかったということになるのかもしれない。[#地から1字上げ](大正十三年二月、渋柿)
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       *

 ルノアルの絵の好きな男がいた。
 その男がある女に恋をした。
 その女は、他人の眼からは、どうにも美人とは思われないような女であったが、どこかしら、ルノアルの描くあるタイプの女に似たところはあったのだそうである。
 俳句をやらない人には、到底解することのできない自然界や人間界の美しさがあるであろうと思うが、このことと、このルノアルの女の話とは少し関係があるように思われる。[#地から1字上げ](大正十三年三月、渋柿)
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[#図3、挿し絵「裸婦」]
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 夢の世界の可能性は、現実の世界の可能性の延長である。
 どれほどに有りう
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