振り回して見せたあとで、そのホヤのガラスの一片を前歯で噛み折りそれをくちびるの間に含んで前につき出し両手を広げて目をむき出し物すごいみえをきった。かけらがくちびるからひっこんだと見ると急に四股《しこ》を踏むようなおおぎょうな身振りをしながらばりばりとそのガラスを噛み砕く音を立て始めた。赭ら顔がいっそう朱を注いだように赭くなって、むき出した眼玉が今にも飛び出すかと思われた。
 噛み砕く音がだんだんに弱く細かくなって行った。やがて噛み砕いたものを呑み下したと思うと、大きな口をかっと開いて見物席の右から左へと顔をふり向けながら、口中にもはや何にも無いという証拠を見せるのであった。その時に山男の口中がほんとうに血のようにまっかであったように記憶している。
 この幼時に見た珍しい見世物の記憶が、それから三十余年後に自分が胃潰瘍《いかいよう》にかかって床についていたときに、ふいと忘却の闇から浮かび上がって来た。
 あの哀れな山男は、おそらくあれから一、二年とはたたない間に消化器の潰瘍にかかってみじめな最期を遂げたに違いない。言わば、生きるためにガラスを食って自殺を遂げたようなものである。
 街の紳
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