それぞれの個性がだんだんにはっきり眼についてくる。角箱には鼻っ張りの強い負けぎらいの気性とオリジナルで鋭いしかもデリケートな才能の動きが地味な褐色の釉薬の底から浮き出しているといったようなところがある。
 灰皿のほうは肉の薄味、線の丸さ、波形の縁《へり》のうねり、その他どう見ても優しいそうして濃まやかな感じの持ち主の手になったものとしか思われない。
 花瓶のほうをよく見ていると手づくねの筒形の胴の表面の彎曲《わんきょく》、釉薬の自然な斑模様《まだらもよう》、そういったもののきわめて複雑な変化の中に、いかにも世の中の苦労という苦労を舐め尽くして来たかのような、しかもいかにも女らしい一種の心ばえのようなものがありありと読みとられるようである。
 これではうっかり団子も丸められない。[#地から1字上げ](昭和十年十月十日)
[#改ページ]

       *

 辻待ちの円タク、たとえば曙町まで五十銭で行かないかというと、返事をしないでいきなりそっぽを向いてしまうのがある。いやな顔をしてきわめてゆっくりかぶりを振るのもある。それからまたにこにこと愛嬌笑いをしてもう十銭やってくださいといいなが
前へ 次へ
全160ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング