すくんでしまう人や、蜘蛛《くも》がはい出すと顔色を変えるようなのもある。中学時代の同窓で少し強い風の吹く日にはこわくて一歩も外へ出られないのがあったが、その男はまもなく病死してしまった。やはりどこか「弱い」ところがあったのかもしれない。[#地から1字上げ](昭和十年十月十日)
[#改ページ]
*
友人の科学者で陶器を作るのを道楽にしている男がある。自分の邸内に窯《かま》を造って専門の職人を雇い込んで本式にやっている。御当人はもちろんであるが、その細君もまたおかあさんもそれぞれ熱心なアマチュア芸術家である。このあいだその友人が大きなふろしき包みをかかえて飛び込んで来た。新聞紙で包んだものを取り出すのを見ると、この家庭芸術家三人の作品のたぶん代表的なものであろう、分厚で長方形のシガレットケース――これは科学者の作、それから半月形の灰皿――これは美しい令夫人の作、それから手どく[#「手どく」に傍点]で白釉《はくゆう》に碧緑《へきりょく》の色を流した花瓶――これは母堂の作である。
今病床の脇の小卓の上にこの三つの陶器がのせてあるのをつくづくながめていると、この三つの作品の
前へ
次へ
全160ページ中143ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング