月、渋柿)
[#改ページ]
*
生来の盲人は眼の用を知らない。
始めから眼がないのだから。
眼明きは眼の用を知らない。
生まれた時から眼をもっているのだから。[#地から1字上げ](大正十年三月、渋柿)
[#改ページ]
*
アルバート・ケンプという男が、百十時間ぶっ通しにピアノを弾き続けて、それで世界のレコードを取ったという記事が新聞に出ていた。
驚くべき非音楽的な耳もあるものだと思う。[#地から1字上げ](大正十年三月、渋柿)
[#改ページ]
*
眼は、いつでも思った時にすぐ閉じることができるようにできている。
しかし、耳のほうは、自分では自分を閉じることができないようにできている。
なぜだろう。[#地から1字上げ](大正十年三月、渋柿)
[#改ページ]
*
虱《しらみ》をはわせると北へ向く、ということが言い伝えられている。
まだ実験したことはない。
もし、多くの場合にこれが事実であるとすれば、それはこの動物の背光性 negative phototropism によって説明されるであろう。
前へ
次へ
全160ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング