うので、この機会にこれらの短文を集めて小冊子を、同君の店から上梓《じょうし》するようにしないかとすすめられた。
 元来が、ほとんど同人雑誌のような俳句雑誌のために、きわめて気楽に気ままに書き流したものである。原稿の締め切りに迫った催促のはがきを受け取ってから、全く不用意に机の前へすわって、それから大急ぎで何か書く種を捜すというような場合も多かった。雑誌の読者に読ませるというよりは、東洋城や豊隆に読ませるつもりで書いたものに過ぎない。従って、身辺の些事《さじ》に関するたわいもないフィロソフィーレンや、われながら幼稚な、あるいはいやみな感傷などが主なる基調をなしている。言わば書信集か、あるいは日記の断片のようなものに過ぎないのである。しかし、これだけ集めてみて、そうしてそれを、そういう一つの全体として客観して見ると、その間に一人の人間を通して見た現代世相の推移の反映のようなものも見られるようである。そういう意味で読んでもらえるものならば、これを上梓するのも全く無用ではあるまいと思った次第である。
 これらの短文の中のあるものは、その後に自分の書いた「他処行《よそゆ》き」の随筆中に、少しばか
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