の人間と他の一群の人間とが草原や川原で追いつ追われつする光景をいろいろの角度からとったものである。人間が蟻《あり》か何かのように妙にちょこちょこと動くのが滑稽《こっけい》でおもしろい。
千篇一律《せんぺんいちりつ》で退屈をきわめる切り合いや追っ駆けのこんなに多く編入されているわけが自分には了解できない。あるいは、これがいちばん費用がかからないためかとも思う。
こういう時代物の映画で俳優たちのいちばんスチューピッドに見えるのは、彼らが何かひとかどの分別ありげな思い入れをする瞬間である。深謀遠慮のある事を顔に出そうとすればするほどスチューピッドになるのは当然のことである。
日本の時代物映画も、もうそろそろなんとか頭脳の入れ換えをしたらどうかと思う。
十四 食うか食われるか
亀《かめ》と亀とが角力《すもう》をとって負けたほうが仰向けに引っくり返される。引っくり返されたが最後もう永久に起き上がる事ができないので乾干《ひぼ》しになるそうである。猛獣の争闘のように血を流し肉を破らないから一見残酷でないようでありむしろ滑稽《こっけい》のようにも見えるが、実は最も残忍な決闘である
前へ
次へ
全32ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング