しろ廃頽的《はいたいてき》な効果を与えるのみではないかという疑いがある。
ドン・キホーテはここでいう人間の真実を描いた漫画映画の好題目である。しかし、せんだって上映されたシャリアピンの「ドン・キホーテ」はそういう意味ではむしろ不純なものであったかと思う。自分は今度見たミッキーマウスの中の犬を描いた筆法でドン・キホーテを描いた漫画映画の出現を希望したいと思うものである。
八 一本刀土俵入り
日本の時代ものの映画でおもしろいと思うものにはめったに出会わない。たいていは退屈でなければ冷や汗の出るようなものである。しかし近ごろ見た「一本刀土俵入り」だけはたしかに退屈せず気持よく見られた。
第一にはカットからカット、場面から場面への転換の呼吸がいい。たとえばおつたと茂兵衛《もへえ》とが二階と下でかけ合いの対話をするところでも、ほんのわずかな呼吸の相違でたまらなく退屈になるはずのがいっこう退屈しないで見ていられるのはこの編集の呼吸のよさによるのである。おつたがなんべんとなく茂兵衛《もへえ》を呼び止めるのがいったいならくどくしつこく感ぜられるはずであるが、ここでは呼び止める一度一
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